共有名義の不動産売却では、複数人で所有している物件を処分することになるため、通常の売却とは異なる複雑な手続きが必要です。
「全員の同意が得られるか心配」や「トラブルを避けるにはどうすれば良いのか」と、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、共有名義の不動産をスムーズに売却するために必要な知識を全てわかりやすくまとめました。
具体的な方法や流れから、注意点、さらには共有者から協力してもらえないときの対処法まで、解説します。一読すれば、安心して手続きを進められるようになるでしょう。

共有名義の不動産売却とは

共有名義の不動産売却とは、1つの不動産を複数人が共同で所有している状態で、その物件を売却することです。
共有名義の不動産を売却する際には、原則として関係者全員の合意が必要です。不動産の売却について意見が割れると、トラブルに発展することもあるため、事前に基本的な仕組みや注意点を理解しておくことが重要です。
ただし、自分が所有している「共有持分※」だけであれば、他の共有者の合意がなくても売却することが可能です。
たとえば、祖父が所有していた土地を孫Aと孫Bに2分の1ずつ相続した場合、孫Aは自分の持ち分(2分の1)だけを第三者に売却できます。
これは建物でも同様で、自分の共有持分だけを売ることは可能ですが、実際には買い手がつきにくく、売却価格も下がる傾向にあります。
※ 不動産を共同で所有している人たちがそれぞれ保有している所有権の割合のこと
共有名義の不動産を売却する際の基本的な流れ

共有名義の不動産売却では、通常の売却より複雑な手続きが必要になります。
- 共有者全員の合意を得る
- 売却時の必要書類を準備する
- 不動産会社へ査定を依頼する
- 売却活動・価格交渉
- 売買契約と決済・引き渡し
そこでここでは、スムーズに売却を進める方法をこちらの5ステップに分けて、解説します。
①共有者全員の合意を得る
共有名義の不動産を売却するには、全ての共有者から売却への同意を得る必要があります。 同意の抜け漏れがないように、まずは、登記事項証明書で現在の共有者を正確に把握しましょう。
登記事項証明書は、法務局に請求して取得します。窓口のほか、オンラインや郵送でも手続き可能です。
次に、売却方法(仲介売却か買取か)や売却価格の希望額と最低額、分配方法について全員で話し合いをします。共有者が多い場合は、まとめ役を決めて意見調整を行いながら進めるのが良いでしょう。
話し合いが難しい場合には、弁護士のほか、実際にさまざまな状況の不動産を取り扱ってきた買取業者に相談するのがおすすめです。
②売却時の必要書類を準備する
売却に必要な書類は早めに準備をしましょう。特に共有名義の場合は、通常より多くの書類を揃える必要があるため取得に時間がかかります。
<全共有者分を用意する必要がある本人確認書類>
- 身分証明書、実印
- 印鑑証明書(発行から3カ月以内のもの)
- 住民票(発行から3カ月以内のもの)
<不動産の状況を証明するための書類>
- 不動産の権利証または登記識別情報
- 地積測量図、境界確認書
本人確認書類に関しては、全員分の書類が必要になるので、気を付けましょう。共有者のなかに遠方在住者や高齢者がいる場合は、窓口に行く手間や郵送の遅れも考慮して、余裕をもったスケジュールを組む必要があります。
査定や契約のタイミングで慌てずに手続きを進めるためにも、早めに必要書類のリストを共有者全員で確認し、取得スケジュールを調整しておきましょう。
③不動産会社へ査定を依頼する
準備が整ったら、不動産会社に査定を依頼します。査定には「仲介」向けと「買取」向けの2種類があるため、自分たちの希望に合った売却方法を見極めながら依頼しましょう。
仲介査定 | 市場価格を基に販売価格を提案。売却まで時間がかかることも。 |
買取査定 | 不動産会社が直接買い取る価格を提示。スピード重視。 |
どちらを選ぶ場合でも、共有名義の不動産売却に実績がある会社を優先的に選ぶことで、スムーズかつ的確な対応が期待できます。
実績の有無については、公式Webサイトに公開している会社も多いため、事前に確認しておくと安心です。
査定結果や対応内容、提示された条件などを比較検討し、信頼できる不動産会社が見つかったら、契約を締結します。
④売却活動・価格交渉(仲介)/条件調整(買取)
仲介の場合、不動産会社による売却活動が始まり、買主からの内覧や価格交渉が発生します。事前に決めた最低価格を下回る提案に対しては慎重に対応しましょう。
また、「何ヶ月以内に売れなければ価格を見直す」などの条件を事前に共有者間で決めておくことも大切です。
買取では、提示された価格や条件を共有者全員で確認し、納得できればすぐに契約手続きへ進みます。価格交渉は基本的に1度限りの提示となる場合が多く、スピード重視であれば買取が有利です。
⑤売買契約と決済・引き渡し
買主が決まり次第、売買契約を締結し、代金の決済と物件の引き渡しを行います。
仲介の場合 | 買主が個人や法人の第三者であるため、契約や引き渡しには共有者全員の立ち会い、または委任状が必要になります。 |
買取の場合 | 買主が不動産会社のため、手続きの進行がスムーズで、契約・決済・引き渡しが同日に完了することもあります |
なお、売却益に対する税金処理(確定申告)が必要になる場合もあるため、売却後の税務対応も視野に入れて進めましょう。
共有名義の不動産を売却に発生する税金や費用

共有名義の不動産を売却する際には、税金や各種費用が発生するため、事前に内容を把握しておくことが大切です。負担割合などについて共有者間で合意形成をするためにも、あらかじめ必要なコストを共有しておきましょう。
主にかかる費用の例は、次の通りです。
- 仲介手数料:売却価格のの約3~5%(仲介売却を利用した場合)
- 相続登記にかかる司法書士報酬:一般的に5万前後~
- 登記手続きにかかる登録免許税や印紙税:契約金額などに応じて変動(例:0~60万円)
なお、売却方法や依頼内容によって発生する費用は異なります。たとえば、買取会社を利用した場合は仲介手数料が不要になることもあります。
具体的な金額や必要経費については、不動産会社や司法書士などの専門家に相談して、正確な情報を確認しておくと安心です。
相続・離婚で共有名義になった不動産を売却するときの注意点

同じく共有名義の不動産を売却する場合でも、相続時と離婚時では問題になりやすい点が異なるでしょう。ここでは、相続時と離婚時に分けて売却をスムーズに進めるための方法と注意点を解説します。
相続で親族と共有になった不動産を売却する場合
相続時、共有名義となった不動産を売却するときには、まず「売りたい人」と「残したい人」で意見が分かれることが多く、トラブルに発展しやすい傾向があります。
特に実家など、思い入れのある不動産を含む場合は感情的な対立も起こりやすく、売却に関しては合意できても、「いくらで売るか」「費用はどう負担するか」などの細かな点で意見が合わず、話が進まないケースもあります。
このように相続人同士で意見がまとまらないときは、できるだけ早い段階で弁護士や不動産の専門家に相談することが大切です。専門家が間に入ることで、冷静な話し合いが可能になるほか、関係悪化によるトラブルの防止にもつながります。
最終的に合意が難しい場合には、「共有物分割請求」という法的手段を検討することもあります。
※ 共有状態の解消を求める制度で、民法256条に定められている。協議での解決が難しい場合には、裁判所へ申し立てを行う必要がある。
離婚で元配偶者と共有になった不動産を売却する場合
離婚により共有名義となった不動産を売却する場合も、関係性の悪化から話し合いが困難になるケースが少なくありません。
特にすでに別居していたり、連絡が取りづらい状況だったりする場合には、弁護士に相談し、交渉を代理してもらうことが効果的です。第三者を通すことでスムーズな合意形成が期待できます。
話し合いでの解決が難しい場合は、家庭裁判所での離婚調停を行うことになり、その場でも弁護士のサポートが大きな助けとなります。
また、「売却する・しない」について元配偶者と対立する場合も、最終的には相続時と同様に共有物分割請求の活用が選択肢となるでしょう。法的な手続きとなるため、早めの相談と準備がおすすめします。
共有者が協力しない場合の対処法

共有名義の不動産を売却したい場合でも、共有者の中に反対する人がいると、売却が進まないことがあります。
しかし、そうした状況でもあきらめる必要はありません。法律で認められている2つの方法を活用することで、共有状態を解消できる可能性があります。
自分の共有持分のみを売却する
共有名義の不動産売却に関して、ほかの共有者の理解を得られなかった場合でも、共有持分のみであれば、自由に売却が可能です。
売却は、共有持分専門の買取業者に対して行うのが一般的です。通常の不動産売却と異なり、一般の買い手はつきづらく、不動産仲介会社を通じた売却は難しいためです。
市場価値に比例して売却価格も安くなりますが、即座に現金化できる点がメリットといえるでしょう。
共有物分割請求を活用する
「不動産全体を売却したいが、共有者の同意が得られない」という場合には、共有物分割請求を検討してみましょう。
共有物分割請求は、法的に定められた制度で、まずは共有者同士で協議を行い、解決を目指します。話し合いでの解決が難しい場合は、裁判所へ訴状を提出して裁判で解決を図ることになります。
裁判では、不動産の共有を次のいずれかの方法で解消するかが判断されます。
現物分割 | 物理的に分割する方法 |
代償分割または価格分割 | 分割時に出る差額を金銭等で補填する方法 |
換価分割 | 不動産を売却して現金にして分割する方法 |
この手続きでは法律や不動産に関する知識が必要なため、弁護士に相談・依頼するのが一般的です。時間や費用はかかりますが、法的な方法で共有状態を解消できる手段として有効です。
共有名義の不動産売却に関するよくある質問

共有名義の不動産売却について、よく寄せられる疑問をQ&A形式で解説します。共有者同意の必要性や税金の取り扱いなど、重要なポイントを確認しておきましょう。
共有者の同意なしに家を売ることはできますか?
共有不動産全体の売却は他の共有者の同意なしにはできません。不動産の売却が民法上の「変更行為」に該当し、共有者全員の合意が必要と定められているからです。
たとえ9割の持分を持っていても、残り1割の共有者が反対すれば売却は不可能です。
共有名義の土地を勝手に売却できますか?
共有名義の土地全体を勝手に売却することは法的に不可能です。土地の売却も建物と同様に民法上の「変更行為」に分類され、共有者全員の同意が法律で義務付けられています。
もし無断で売却を試みても、登記手続きや契約締結の段階で他の共有者の署名・押印が必要となるため、実際には進められません。
共有名義の不動産を相続して売却するときの税金は?
共有名義の不動産売却では、各共有者が持分割合に応じて個別に税金を納付する必要があります。
計算式としては、売却益(譲渡所得)に各自の持分割合を掛けて、それぞれの課税所得を算出します。たとえば共有持分が1/2ずつで1,000万円の利益が出た場合には、各自500万円ずつが譲渡所得税や住民税の課税対象です。
このほかにも、名義変更手続きに伴う登録免許税や、売買契約書の作成に伴う印紙税も、売却時にかかります。
まとめ
共有名義の不動産売却は、通常よりも手続きが煩雑で、共有者間の合意形成が難しいことからトラブルにつながりやすい傾向があります。また、必要となる書類の数も多く、事前準備に時間がかかるケースも少なくありません。
スムーズに進めるためには、基本的な知識を身につけたうえで、共有者との話し合いに臨むことが大切です。
加えて、共有名義の不動産売却に実績のある不動産会社を選ぶこともポイントです。相談から対応してくれる会社であれば、共有者との調整で悩んだときにも心強い存在となるでしょう。
まずは、気軽に専門の不動産会社に相談してみることから始めましょう。

記事監修
須藤 光輝
宅地建物取引士 応用情報技術者
福島県出身。慶応義塾大学理工学部を卒業後、2014年に中途でオープンハウスに入社。
営業推進部門の立ち上げ、戸建事業の経営計画策定、仕入契約条件の標準化、DXを推進。
買取再販部門の立ち上げ、個人から直接用地仕入を行うためのスキーム確立。
契約管理部門の立ち上げ、事業標準化と生産効率の向上。
事業管理部門の立ち上げ、品質・安全性・顧客満足向上と取り組んできた業務は多岐にわたる。
現在は、他社に先行し実家じまい・家じまいのセミナー講師を務める傍ら、戸建賃貸ファンド・アパート事業の責任者をしている。
趣味は考古学、子どもと一緒にパズルを作ること。
福島県出身。慶応義塾大学理工学部を卒業後、2014年に中途でオープンハウスに入社。
営業推進部門の立ち上げ、戸建事業の経営計画策定、仕入契約条件の標準化、DXを推進。
買取再販部門の立ち上げ、個人から直接用地仕入を行うためのスキーム確立。
契約管理部門の立ち上げ、事業標準化と生産効率の向上。
事業管理部門の立ち上げ、品質・安全性・顧客満足向上と取り組んできた業務は多岐にわたる。
現在は、他社に先行し実家じまい・家じまいのセミナー講師を務める傍ら、戸建賃貸ファンド・アパート事業の責任者をしている。
趣味は考古学、子どもと一緒にパズルを作ること。